プロジェクトについて

本プロジェクトで紹介する 5 件のインタビュー抜粋は、多くの学術出版物への展開が期待される、現在進行中の大規模プロジェクトの一部です。各インタビュー冒頭には、簡単なインタビューの概要や背景などが置かれています。 書き起こしの内容に編集がある場合は、その編集内容を以下のように明記しています。

  • [...] は、沈黙や言いよどみなどを表しています。

  • [ ]で囲まれた部分は、文章の流れを理解しやすくするために追加した説明です。インタビュー音声上に存在する発話ではないことを示しています。

五島列島にあるユネスコ「潜伏キリシタン関連遺産」

ユネスコは2018年、長崎と天草の地域にまたがる10の村、城跡、1つの天主堂を含む12の構成資産を「潜伏キリシタン関連遺産」として登録しました。このうち、五島列島には8、9、10、11番目の遺産があり、その4つの遺産のうち2つは廃村跡、2つは現在も人が住んでいる集落です。このオーラル・ヒストリー・プロジェクトは、研究者グウィン・マクレランドによる、 4 つの遺産の調査から始まりました。

久賀島の集落、奈留島の江上集落、頭ヶ島の集落、野崎島の集落の4つの潜伏キリシタン関連の遺産は、仏教、神道、潜伏・カクレキリシタン、そしてカトリックの伝統に対する共通の理解と、それらが明らかに宗教的伝統の特徴を共有し文化的混淆を見せていることに、どのようにして私たちが焦点をあてるかという点で、21世紀の現代に重要な資産を構成しています。

2017年に国際記念物遺跡会議(イコモス)がユネスコに提出した報告書は、この4つの潜伏キリシタンの伝統の証拠、その遺物、キリスト教解禁後の教会の建築について、ある程度詳しく述べています。 イコモス報告書ではまた、「…積極的に崇拝するキリスト教徒の継続的な存在、農地の継続的な使用、神社や教会の建物内での継続的な礼拝が…潜伏キリシタンの物語に寄与している。」とも述べられています。

イコモスは、この地域の文化的世界遺産全体に関する知識の保存のため、「地元の人々の現世代の信仰と記憶を記録するオーラル・ヒストリー・プロジェクト」を推奨しました。なお、このプロジェクトに含まれる 5 つのインタビュー抜粋のうち、「宮本フジエさんと實男さんのインタビュー」(久賀島のインタビュー)は、集落全体が世界遺産となっている久賀島の現地で行われたものです。

オーラルヒストリーにおける主観性

オーラルヒストリアンは、往々にしてインタビューの見解の主観性がいかに新しい方法で歴史に光を当てているかを強調することが多いものですが(宮本フジエさんと實男さんのインタビュー、および中村満さんのインタビュー、そして、レッスンプラン:愛のわざを実践するを参照)宮本フジエさんと實男さんというカトリック教徒の夫婦へのインタビューには、牢屋の窄事件が起きた久賀島のような場所で、トラウマ的な記憶が150年もの時を超えて受け継がれ、世代継承されていることを示唆する感動の瞬間があります。

したがって、ここで考察する潜伏キリシタンの遺産の 1 つの側面は、「ポストメモリー」(後付けの記憶)、つまり世代を超えたトラウマ的な記憶の伝達の可能性です。 宮本實男さんに、 牢屋の窄で何が起こったのかを最初に説明したのは両親であり、實男さんが牢屋の窄について書物から学ぶことをどのように「強制」されたのかを強調して語っていることに注目してください。 宮本夫妻にとって、フジエさんの先祖が巻き込まれたトラウマの記憶は、個人的なものであると同時に、キリシタンたちの殉教の歴史や長崎地域での広範な経験に関連しているため、宗教的にも重要なものです。この宮本夫妻のインタビュー抜粋の最後で、フジエさんが「まさごろう」というご先祖の名前を静かに呟いたのをマイクが拾っています。

 フジエさんがご先祖である「まさごろう」さんを尊敬の念を込めて呟いたのは、その名前がフジエさんにとって重要で神聖な関連性を持っているからではないでしょうか。約158年後、久賀島の南海岸にある家族の談話室でのインタビューは、フジエさんが先祖についての思いを募らせる中、突然中断されました。「まさごろう」という名前は、フジエさんにとってこのトラウマと個人的なつながりを持つものでした。「まさごろう」は潜伏キリシタンの信仰のため牢に入れられました。 夫妻がグウィン・マクレランドに語ったところによると、彼の遺骨は島の中心部にある殉教者の丘の敷地内に葬られているそうです。

このプロジェクトの読者は、こうしたインタビューを見ながら、それぞれが潜伏・カクレキリシタンの歴史の中で、個人的な記憶や、集団的なポストメモリー、そしてもっと広い公的な知識の共通集合をどう形づくればよいかを考えることができるでしょう。


翻訳:坂谷信子氏