潜伏キリシタンとオーラルヒストリー: ヒラキもん、ジゲもん

授業計画:ヒラキもん、ジゲもん [インタビュー2 :浦上幸子]
作成:グウィン・マクレランド、ニューイングランド大学 (五島列島: 坂谷伸子、大崎五月協力)
作成日:作成日:2024年1月23日
キーワード:アイデンティティ、洗礼、カクレ、ジェンダー、差別


インタビュー2:浦上幸子

対象者:

学部生、大学院生

所要時間:

 1 時間(読書時間は含まれません)

学習目標:

  1. このインタビューにおけるインタビュー対象者の自己概念を考慮してください。

    このトピックのさらなる詳細については、「参考文献」に掲載されているリン・エイブラムスの優れた著書『オーラル・ヒストリー理論』の第 3 章を参照してください。1 しかし、エイブラムスは「人類学者は、いわゆる『自己の発明』は西洋近代の構築物であり、したがって他の文化では馴染みのないものであるという事実を長い間私たちに警告してきました。」と書いています。浦上さんが育ったハイブリッド文化の中で、彼女は個性的で重要な記憶、社会の対話をどのように利用しているのでしょうか。

    2. このインタビューを検討する際には、「ジェンダーの視点」を使用してください。

    上野千鶴子(フェミニスト理論家)は次のように書いています「現実の構築は女性の歴史の研究において重要な問題です。歴史的事実を入手する可能性が完全にない中で、男性によって書かれた公的な歴史の背後に隠れる、女性にとってのもう一つの現実をどのように再構成すればよいのでしょうか?」(べバリー山本訳)2

1  Abrams, L. (2016). Oral History Theory (2nd ed.). Routledge. https://doi.org/10.4324/9781315640761
2 Ueno, Chizuko, 1948-. (2003). Nationalism and gender / Chizuko Ueno ; translated by Beverley Yamamoto. Melbourne : Trans Pacific Press, 4. Ueno, Chizuko. ナショナリズムとジェンダー. Japan: 青土社, 1998.

この授業に含まれる可能性のあるコース

  • オーラルヒストリー

  • 歴史学

  • 日本研究

  • アジア研究

  • 宗教学

必要な教材

活動/手順

授業の準備として、まずインタビュー 2 を聞き、語彙リストを参照しながら書き起こし文を読んでおきましょう。インタビューの感想をクラス全体で話し合います。次に、この指導ガイドの背景情報を読んでください。 小グループで学習目標について話し合います。 このガイドの最後には、さらに議論すべき質問があります。

背景情報:

五島列島の場合、「居付き」または「ヒラキもん」として知られる入植者は迫害者ではなく迫害された側であり、「ジゲモン」と呼ばれた先住民は潜伏キリシタンの移住者たちが来る前に住んでいた人々でした。五島列島に移民した理由は、その前に起きた大村領の外海地方での弾圧です。大村領主は、外海地方の人口が過剰であった為、農民は家族ごとに男児一人のみ育てられると発表しました。その結果、もう一人息子が産まれても、子殺しが必要となりました。

現在、五島列島のキリシタンの子孫は大抵、外海を起源としています。しかし、島々の中に、人口統計の違いがあって、特に、カトリックの比率が違います。例えば、このインタビューが行われた中心的な場所である奈留島では、カトリックに戻らなかった、「カクレキリシタン」の子孫が、今の島民の約6割で、カトリックに戻った人は1割程度しかいません。そして、南の久賀島へ行けば、島民の約3割がカトリック信徒だそうです。北の島の上五島地方へ行けば、3分の1ぐらいがカトリックだけれども、福江島のカトリックは約12~15パーセントです。奈留島は久賀島のすぐ北にあり、UNESCOの潜伏キリシタン関連遺産の一つも奈留島にもあります。島の西のほうにある江上と言う小さい集落で、綺麗な教会もあります。しかし、このインタビューではその世界遺産については論じられていませんでした。

浦上サチ子さん(旧姓:蜂口)は奈留島の矢神という小さい村に十五歳ぐらいまで住んでいて、現在住んでいる福江島では、ゲストハウスを営んでいます。五島列島の中では、福江島が一番大きい島です。このインタビューは矢神の湾の向かいにある柿森和年氏が取り仕切る「潜伏きりしたん資料館」にて行われたため、柿森さん(別でインタビューもあり)も同席して、特に、このインタビューの終わりのほうで意見を出しています。その他の部分は、浦上さんの話が多くなっています。掲載しているのは編集版で、各セクションの間に5秒間の沈黙を入れました。

UNESCO潜伏キリシタン関連遺産に関して、奈留島で行われたインタビューでその選択の偏りがあるというのが明らかになったと言えます。なぜかというと、奈留島にある世界遺産は江上集落との関連が少なく、その逆であり、このインタビューでわかったことが2018年に登録された世界遺産をみたら、少なくとも五島列島においては現代カトリックの資産に偏っており、カクレの資産は省かれました。1873年以来カトリックの集落になりましたが、久賀島、江上集落、頭ヶ島、野崎島の四つの全部の場所でほとんどの人がカトリックになりました。しかし、奈留島ではカトリックにならず、その間、徐々に数を減らしながらカクレキリシタンとして知られるようになったコミュニティが主なグループとなっています。(柿森氏インタビュー5参照). あるカトリックに戻らなかったカクレキリシタンは19世紀後半に新しく建てられた神社を代わりに使って、組織を隠しました。彼らは先祖から伝えられた様々な行事やオラショ(祈り)を続けてきており、場所によっては神道の国家(明治以降の時代)から影響を受けたり、新しいカトリックの人々から影響を受けたりしました。他のカクレは仏教や神道文化に吸収され、段々カクレの祈りなどをしないようになりました。

オーラルヒストリー(口述記録)では、インタビューの間、インタビュー対象者が感情を表出することはよくありますが、このインタビューも例外ではありません。セクション4では、浦上さんが感情的な記憶を語ります。私は彼女に、他にご家族の話を何か聞いたか尋ねました。それで、浦上さんのご先祖がここ奈留島に来た時の話を語りました。

ディスカション質問:

  • 1873年以降、カトリックに戻らなかった潜伏キリシタンもいました。なぜでしょうか。

  • 浦上サチ子さんのあゆみは、キリスト教に戻る苦労について何がわかりますか?

  • 浦上さんによると、潜伏キリシタンの記憶や行事の伝承が、性別によって違ったのはなぜですか。

浦上さんの兄は、キリシタンが海から魚以外、動かないもの、つまりサザエやアワビなどを獲らないようジゲモンが監視していた「見張り小屋」について、彼女に語ったといいます。とくに、キリスト教が公に禁止された潜伏時代だけでなく、特にその後も弾圧の影響を受けました。なぜ1873年以降も、まだいじめや差別が続いたのでしょうか。

  • あなたのご家族の話で、あなたが泣けると思う話はあるでしょうか。どんな話だったら、心を動かすでしょうか。

評価:

このレッスンを完了した後、生徒は「自己」は西洋の概念であるというリン・エイブラムスの意見に同意するかどうか、また浦上幸子さんから理解したことを、その理由を説明する短い文章を書くことができます。 分析にはジェンダーの視点を使用します。

参考文献: 

Abrams, Lynn (2016). Oral History Theory (2nd ed.). Routledge. https://doi.org/10.4324/9781315640761. 

上野 千鶴子1948年~ (2003年)『 ナショナリズムとジェンダー』岩波書店

ビバリー山本訳 メルボルン:『トランス・パシフィック・プレス』


参照写真:

A photograph of a leafy hillside where residents are growing sweet potato on steep slopes on the Uome peninsula, Nakadori Island.写真1: 中通島、魚目半島の急斜面でサツマイモを栽培する様子、2023年。© マクレランド

Nearby Akogi, where Kakimori Kazutoshi has worked to open up an old Kakure Kirishitan forest track, with the old stone walls alongside. Tree roots surrounded by rocks lead up to an old Kakure Kirishitan forest track.写真2:近くの阿古木では、柿森和年氏が旧カクレキリシタン林道の整備を行っており、古い石垣が並んでいる。2022年 © マクレランド

A printed map of Narushima Island and its surrounding islands.図表3:奈留島とその周辺。米国陸軍測量、1:50,000 1943 年 https://nla.gov.au/nla.cat-vn7248195  オーストラリア国立図書館

クレジット/謝辞:

インタビューでは浦上幸子さん、インタビュー会場は柿森和年さんに感謝いたします。 また、本プロジェクトにご協力いただきました佐々木亮さん(福岡県)、西村明さん(東京大学)に感謝いたします。